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主に本と映画のライフログ

墨攻

墨攻

伝説のコミックを完全映画化。10万の敵にたった1人で挑んだ男。

渋谷ピカデリーにて。煽り文句を見るに第4回中島敦記念賞受賞の原作が軽んじられているようで悲しい(「梁城編」でエンディングを迎えることから尺は書籍寄り)。原作では寡兵で大軍を討つための奇策・奇略、墨家の思想(「兼愛」「非攻」)、戦乱の世の無常、革離の人間性などが見どころだった。本作への期待も原作に拠るところが大きい。とはいえ、映画化には省略が必要。どこを削るのかに注目して観た。浅い、薄い、もったいない。書籍版、コミック版の長所をいずれも表現しきれておらず、及第点には程遠い(強いて言えば、革離が戦略家ではなく戦術家であり、将たる器ではない悲劇の部分は伝わった)。残念ながら駄作・失敗作の類と断言する。アンディ・ラウはかっこいいかもしれんが、革離の放つ熱さや人間的魅力とはベクトルが合っていない。大作にありがちなお約束(悲恋)の挿入、民衆の訓練など地味なシーンの省略によって、観客に訴えるべき軸を持たない(何が言いたいのかわからない)凡作となってしまった。奇策の面白さとは何か。下準備の地道な作業と実地での華々しい戦果のギャップがあってこそ、カタルシスを得ることができる。革離は民衆を導き一緒に行動することで、人任せで受け身な彼らに自らの主は自分であること、そのために戦い守ることの意味を浸透させていく。ここを省略しちゃダメ。ものすごくよくできた原作なだけにまったくもって悲しいことだ。

墨攻 (新潮文庫)

墨攻 (新潮文庫)