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主に本と映画のライフログ

ハマースミスのうじ虫

東京創元社の〈クライム・クラブ〉叢書から1955年に発行されて以来、伝説の名著と語り継がれていた本作が新訳で復刊。主人公の素人探偵キャソン・デューカーはワイン輸入商。犯罪者狩りを道楽としている。ふとしたきっかけで恐喝犯バゴットの存在を知り、義憤と好奇心に駆られて接近、罠を張りめぐらす。
ミステリと映画のエライ人、瀬戸川猛資のレコメンド本『夜明けの睡魔』を読んでウズウズ。そういえば植草甚一翁も「絶対にこの3冊」の中で、ウィリアム・モール『ハマースミスのうじ虫』、マイケル・ギルバート『開け胡麻!』、J.M.スコット『人魚とビスケット』を挙げていた。ところがオークションなどで見るかぎり、元本はたいへんなプレミアが付き、とても買えたものではなかった。
奇怪なタイトルだが、恐喝犯の名がバゴットなもので「Maggot」とかけてるわけ。一読、わくわくどきどきかというと違う。上手いなあ、読ませるなあって感じ。心理描写が絶妙。キャソンがジリジリと核心へと迫っていくさまにヒヤヒヤし、バゴットを犯行へ至らしめた歪んだ妄念が刺さる。心の闇。
知らなかったトリビア。作者ウィリアム・モールは、英国情報局保安部(通称MI5)の元諜報部員。しかも『007』の上司Mのモデルとなった人物の補佐官だったという。おーいえー。


人魚とビスケット (創元推理文庫)

人魚とビスケット (創元推理文庫)

007のボスMと呼ばれた男

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